鍼灸師について知る
高齢化社会が進むなか、健康寿命を延ばし、自分らしい暮らしを長く継続できるように「健康づくりのための身体活動・運動分野の取り組み」として厚生労働省も情報を発信しています。そうした観点からも今後は予防医学がますます重要になってくるでしょう。また投薬による治療を避けたい、例えば妊娠中の人やアスリートへの治療においても、副作用が少ない鍼灸が注目されています。
今回は鍼灸師とはどのような仕事をするのか、またその魅力とは何なのかを探り、鍼灸師の将来性を確認していきましょう。
鍼灸師と呼ばれますが、はり師ときゅう師は個別の資格を持った職業で、両方の資格がないと仕事ができないものではありません。
はり師もきゅう師も国家資格の必要な職業です。まずそれぞれの職業を確認しておきましょう。
はり師というのは、治療用のはりを用いて体の不調を治すための施術を行うことが認められた医療職です。はり師として仕事をするためには、厚生労働省と文部科学省によって認可された専門の施設、あるいは鍼灸の専門知識や技術を学べる学科のある大学、短期大学で3年以上学んだのち、国家試験を受け、合格する必要があります。そのうえで、はり師として名簿登録をすると、はり師としての仕事ができるようになります。
きゅう師もはり師と同じように、厚生労働省と文部科学省によって認可された専門の施設あるいは鍼灸の専門知識と技術が学べる大学や短期大学で3年以上学んだのち、きゅう師の国家試験に合格することが必要です。
また、名簿に登録をしておかなければ、きゅう師としての仕事はできません。
また、はり師もきゅう師も通信教育では、専門知識や技術を学び国家試験を受験することはできません。
鍼灸師の国家試験について詳しく知りたい方は以下もご覧ください。
同じように国家試験に合格した人のみが従事できる職業に、柔道整復師があります。鍼灸師も柔道整復師も、体の症状を緩和したり、機能回復したりするための施術をする職業ですが、治療方法が異なります。
鍼灸師ははりやきゅうを用いて、体にある経穴(けいけつ)や経絡(けいらく)に微細な刺激を与えることで症状を緩和したり、身体機能を維持したり、回復させたりします。
柔道整復師は非観血的療法(手術のような方法を行わない療法)によって骨折や脱臼、捻挫などの治療に当たります。
柔道整復師についての詳細は以下の記事もご覧ください。
【徹底解説】柔道整復師とは?仕事内容、必要な資格、年収や適性について
鍼灸師は東洋医学で用いられる治療法のひとつである鍼灸を担う医療職として、さまざまな施設で働いています。治療に用いるのは、はりまたはきゅうです。体にある経穴や経絡に、はりやきゅうによって刺激を与えることで症状を治したり、病気を予防したりします。鍼灸による治療は、投薬や手術によって患部に直接働きかけて問題のある患部を治療するものではなく、体に備わっている自然治癒力や免疫機能の働きを高めて治療をするものです。そのため副作用が少なく、赤ちゃんや妊娠中の人、あるいは投薬を避けたいアスリートなどにも施せる治療として注目されています。
東洋医学で未病と呼ばれる状態に対応できる鍼灸治療。その治療に携わることのできる鍼灸師という職業にはどのような魅力があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
独立開業できる
鍼灸師は自分の治療院を開業する権利が認められた医療職です。専門の知識と技術を身に付け資格を取得したのちは、治療院などで勤務をして経験を積んで、やがて独立開業する人も少なくありません。
予防医学への貢献ができる
西洋医学では改善が図れない未病と呼ばれる状態に治療を施し、病気やけがの予防に役立てることができます。高齢化が進む社会において、高齢者が健康で自分らしく暮らすためには身体機能の維持が必要です。一方で、体力が衰え始める高齢者にとって、投薬による治療や機能回復が図れないケースがでてきます。そうした状況でも、副作用が少ない治療法によって病気の予防や身体的な機能回復、維持を図れる鍼灸治療は有用だと考えられます。今後、鍼灸治療は健康寿命を延ばすためにも期待される治療法だと言えそうです。
西洋医学と東洋医学を組み合わせた総合医学的な治療法として期待されている
高齢化社会においても期待が高まる鍼灸治療ですが、さらに、西洋医学では治療効果が見られない、あるいは薬が使えない人に対する治療法としても世界中で注目されています。つまり西洋医学と東洋医学の利点を取り入れた総合医療においても期待されている治療法なのです。
人の役に立てる仕事であることへのモチベーションが高い職業である
医療に従事する職業に共通の魅力でもありますが、直接的に、あるいは間接的に人の苦しみを軽減するために知識と技術を役立てることができる仕事であることは、大きな魅力のひとつであると言えるでしょう。さらに東洋医学の治療に携わる鍼灸師は、医療職のなかでも患部を治療することに注力する西洋医学に比べると、不調を訴える相手の様子、生活ぶり、体の状態など、その人を診て、理解して、総合的に治療を行うという特徴があります。そのため、人の役に立てる仕事であることを強く意識できる職業だと言えるでしょう。
鍼灸師は体の不調を訴える人に対して、はり治療やきゅう治療を行います。しかし、同じような症状を訴えている場合でも、根本的な原因が何であるのかを把握しておかないと、適切な治療は行えません。適切な治療を行うためには鍼灸師としての技術の高さはもちろんのこと、人に接して対応するためのさまざまな能力が求められます。ここではどのような人が向いているのか、またどのような能力を身につける必要があるのかをみてみましょう。
どの職業にも共通した要素ですが、相手に向き合う職業である以上、清潔感は不可欠です。相手に悪い印象を持たれると聞き出すべき症状や生活習慣などもスムーズに話してもらえません。服装、髪型なども気を付け、衛生面においても気配りのできる人であることが基本です。
また相手に自分の体を任せること、安心して症状を伝えること、生活習慣などを話すことは信頼がないとできません。鍼灸師をはじめ、医療に携わる人にはとくに重要な資質ですが、信頼してもらえる人間であることはとても重要です。信頼感を抱いてもらうためにも、体の不調に対する訴えに真摯(しんし)に向き合い、自分のことのように理解を示し、対応しようとする姿勢が求められます。
生活環境や日常生活における習慣なども丁寧に聞き取り、判断する必要があります。言い換えれば、不調を訴える人が話しやすい、些細なことでも伝えやすい人であることが大切なのです。基本的なコミュニケーション能力が備わっており、円滑なやりとりができることが重要です。
症状を訴えている人にとって、痛むときの状態、痛みの強さ、不快な感覚といった感覚的なものを伝えることは難しいものです。聞く側に想像力や、理解しようとする姿勢がないと「何度言っても分かってもらえない」といった不満を植え付けてしまいます。言い換えれば、言葉にならなくても様子を見て、状態を察する力が必要なのです。
鍼灸師は経穴や経絡にはりやきゅうを用いて刺激を与え、症状を改善するための施術をします。その施術は正確でなくてはなりません。言い換えれば、処置をするときの緻密さ、几帳面さが重要です。
副作用が少なく、投薬を避けたい人にも利用可能な鍼灸治療は、高齢化が進む社会で需要が高まると期待されています。それに伴い、さまざまな分野で活躍が期待されるのが鍼灸師です。その一部をのぞいてみましょう。
スポーツ選手を対象として、けがの予防や治療を施し、コンディションを整え、より良いパフォーマンスを支えるための鍼灸を施すのが役割です。鍼灸の技術力はもちろんのこと、スポーツ医学に関する専門知識が求められます。また、スポーツ選手一人ひとりの状態や特徴を把握して、適切な施術を行う必要があるため、コミュニケーション力や緻密さといった力も高めておく必要がある職業です。
健康づくりへの取り組みやスポーツに親しむ人が増えているため、プロ・アマを問わずスポーツ鍼灸を必要とする人も増えると考えられます。スポーツジムやプロスポーツクラブに所属して仕事をすることが多いようです。
美容鍼灸は肌の状態によってエステや皮膚科での治療が受けられない人に対して、自然治癒力を高めることで肌トラブルの解消を目指すことを目的に行われています。対応する症状には、しわやたるみ、しみといった肌トラブルから、肌荒れ、乾燥肌なども挙げられます。こうした症状を身体全体の問題として、内面からの改善を促すのが美容鍼灸の治療です。内臓の機能を回復し、血行を促進させ、肌に現れた症状の緩和、回復を図ります。また、肌トラブルとして現れた症状の背景にある、ストレスといった精神的疲労回復などにも対応します。西洋医学の分野では病気として治療対象となりにくい症状に対しても、対応できるのが大きな魅力であり、年齢を問わず求められる治療法でもあります。
高齢者医療においては、ひとりの患者さんが多疾患、多愁訴を持っていることが多く、また慢性症状であり治療が難しい状態を示すケースが少なくありません。そうした場合でもQOLを維持した包括医療が重視されます。その観点から東洋医学の有用性が注目され、なかでも鍼灸治療は投薬を用いない治療法であることからも期待されています。自然治癒力を高め、症状の軽減、体調の維持を図る鍼灸治療は、高齢者医療において今後ますます需要が高まると考えられています。
生理痛や生理不順といった女性特有の症状、また更年期障害といった年齢によって症状が現れるような身体の変化に対応するのがレディース鍼灸です。鍼灸を施すことで、ホルモンバランスを整え、免疫機能を向上させて症状緩和を図ります。また、不妊治療の一環として、精神的な不安を取り除くためのリラクゼーション効果を期待した治療法としても注目されています。
鍼灸師は幅広い領域での活躍が可能
国家資格である鍼灸師(はり師、きゅう師)の活躍の場は、今後ますます広がっていくと期待されます。病院においても西洋医学と東洋医学を組み合わせた総合医療が取り入れられ、東洋医学の観点から未病という状態での治療を施すことで、病気を予防することの重要性が意識されています。その治療のひとつとしても鍼灸は注目されています。
こうした期待が高まるなか、実践力と専門知識を身に付け、さらに、医療従事者としての人間性を高めていくことが重要視されています。今後は、資格を取ることだけに着目するのではなく、総合的に学べる環境でプロの鍼灸師、医療者として成長できる学びの場を選択することがますます重要になるでしょう。
日本健康医療専門学校では充実したカリキュラムと専門的な講師陣、多様な現場で活躍する卒業生を有しています。入学前の国家試験合格のためのサポートはもちろん、試験合格後もすぐに現場で活かせる実践力を養うことができます。