スポーツトレーナーについて知る
「パーソナルトレーナー」という名前を聞く機会が増えてきました。なかにはひと通り調べて、自分の生涯の目標にしてみようと考えた人もいるでしょう。今回はパーソナルトレーナーになるためのプロセスや持っておくと有用な資格の取り方などについて詳しく紹介します。
パーソナルトレーナーは、ひと言で言えば「顧客の要望に応じ、ボディーメイクのための運動・食事等の指導をする職業」です。千差万別の要望を持った顧客の目標を一緒に実現するために、パーソナルトレーナーは個別の要望に即したプログラムを提案し、実施していきます。
そうした顧客一人ひとりに向き合い、トレーニングや食事指導を行うパーソナルトレーナーになるためのプロセスについて見てみましょう。
パーソナルトレーナーとしての活動の場所としては、やはりジムやフィットネスクラブが多く、基本的な知識や素養(ほかのスポーツでの経験等)があれば、いきなりデビューも夢ではありません。しかし一般的には、専門知識を習得できる学校で学びながら、パーソナルトレーナーに関係する資格取得を目指すことになります。
まずはスポーツ系の専門学校や大学へ進学をします。専門学校や大学への進学に際しては高等学校卒業と認定されていることが必要です。
専門学校や大学でパーソナル指導法やスポーツ心理学、パフォーマンス評価法といった身体能力を科学的根拠に基づいて判断する方法や、それに必要な基礎知識などを学びます。技術的な指導法を実習で体験するほか、所属のジムあるいは提携先の施設などでのインターンシップを経験することもあります。
卒業後にはジムやフィットネスクラブに就職、あるいはパートタイマーやアルバイトなどの雇用契約を結び、スタッフとしての受付業務や事務仕事なども処理しながら、パーソナルトレーナーとしての経験を積むことになります。
経験を積み、パーソナルトレーナーとしてのスキルが高くなれば、フリーランスとして活躍する可能性も広がります。その場合は、ジムやフィットネスクラブの専属トレーナーになったり、直接、顧客を開拓したりしていきます。
パーソナルトレーナーとして活躍するにも、その能力の証明として資格を取得しておくことは大変に有効な手段です。
パーソナルトレーナーの仕事内容の詳細は、「パーソナルトレーナー、その仕事内容と働き方の可能性」もご覧ください。
パーソナルトレーナーは国家資格が必要な職種ではないので、国家試験を受験し合格したのちに、登録しなければ仕事ができないということでもありません。民間の団体が認定している資格はいくつかありますが、パーソナルトレーナーとして仕事をするうえで、必ず所有していなければならない資格はありません。
ですが、パーソナルトレーナーとして就職することや、自営業として独立することを考えると、能力の証明には資格保持が有効です。そのための資格の種類や特徴などについて紹介します。
主要な資格には次のようなものがあります。
■NESTA-PFT(NESTA 認定パーソナルフィットネストレーナー):
全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)の認定資格となるのがPFT(パーソナルフィットネストレーナー)です。世界的に認知されている資格でもあります。
認定資格を取得するためのコースは「ダイレクトコース」(講座を受講することなく、経験があることを踏まえ、認定試験を直接受験して資格を取得する)、「ゼミコース」(NESTA実施の講座を受けたのちに認定試験を受験する)、「WEBコース」(NESTAの通信教育講座を受講し、認定試験を受験)の3つです。
受験資格は以下となります。
1. NESTA JAPAN(あるいは医学映像教育センター)からPFTテキストを購入済みであること
2. CPR(心肺蘇生法)・AED(自動体外式除細動器)の技能を習得・保持している(定期的にトレーニングを積んでいる)
3. 日本国籍または、日本での就労可能な在留資格を有する者
4. 満18歳以上で、高等学校卒業以上の者、高等学校卒業程度認定資格試験(旧大学入学資格検定)合格者、またはNESTAが認定する教育カリキュラム修了者
の4つの条件を満たした上で、以下の4つの項目のうち1つ以上に該当していること。
(1) 1年以上のパーソナルトレーナー・インストラクターなどの実務経験がある
(2) 1年以上の運動部指導、フィットネス企業勤務経験がある
(3) 体育系または、医療系の大学・専門学校を卒業している
(4) NESTAの認定する養成講座、養成コースを受講済みである
参考:NESTA(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)より
NESTAはアメリカに本拠地があり、トレーナーとしての知識習得のほか、フィットネストレーナーとして活動するためのビジネススキルまでを学べます。知名度、人気、習得スキルの面で、ぜひとも取得しておきたい資格のひとつです。
■NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー):
米国コロラド州に本部を持つNSCA(National Strength and Conditioning Association)の日本支部が特定非営利活動法人 NSCAジャパン(日本ストレングス&コンディショニング協会)。そのパーソナルトレーナーの資格が「NSCA-CPT」です。
パーソナルトレーナーとしての知識やスキルの証しとなるだけではなく、国際的にも認知、資格保有者が多いのも特徴。
受験資格は、NSCAジャパンの会員であり満18歳以上、高等学校卒業者または高等学校卒業程度認定試験(旧:大学入学検定試験)合格者であることですが、さらに、資格認定を受けるためには、試験に合格したうえで、CPR(心肺蘇生法)とAED(自動体外式除細動器)の受講認定者であることが条件となります。
2016年から導入されたコンピューター試験で、受験者が試験会場や日時を選んで受験できるようになりました。NSCA資格認定試験の公式ホームページによると、2018年度の実績で、NSCA-CPTの合格率は75.2%です。
■JATI-ATI(JATI認定トレーニング指導者資格):
日本トレーニング指導者協会(JATI)の認定資格です。資格取得のプロセスは、JATIへの入会を経て、8月に一般科目と専門科目で各15.5時間の養成講習会を受講したうえで、ワークノート(自己学習課題)を提出し、10月から3月の間で地域別に実施されるトレーニング指導者認定試験に合格することが条件になります。
■JHCA(特定非営利活動法人 日本ホリスティックコンディショニング協会)認定資格
特定非営利活動法人 日本ホリスティックコンディショニング協会(JHCA)の認定資格には3つの資格があります。JHCA-FC(フィットネスコンディショナー=ストレッチ、レジスタンストレーニングなどの基礎の指導者)、JHCA-HC(ホリスティックコンディショナー=神経・筋機能へのアプローチ等、従来のパーソナルトレーナーより一段上の指導者資格)、JHCA-HCAD(上級ホリスティックコンディショナー=スポーツ動作や日常姿勢の機能改善・体力向上にも対処する同協会最上位の資格)となっています。
JHCA-FCの受験資格は以下となります。
1,JHCA会員であること
2.JHCA主催の「パーソナルトレーナー基礎講座」全4カリキュラムを受講修了していること
3.JHCA賛助会員「認定校」の体育大学、専門学校在校生の場合は、運動指導の実戦経験不足を考慮し、鍛錬度チェックで協会認定の基準重量をクリアできること
■CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト):
特定非営利活動法人 NSCAジャパンの認定資格です。
受験資格は、「出願時、受験時にNSCAジャパン会員であること」、「4年制大学の卒業見込み者、または学位(学士・修士・博士)及び高度専門士の称号を取得している者」「出願時に有効なCPR(心肺蘇生法)またはAED(自動体外式除細動器)の技能に関して認定を保持していること」となります。
2030年からは「NSCAが認定するストレングス&コンディショニング関連の教育プログラムを卒業し、学位を取得していること、または同プログラムに在学している大学卒業見込み者」に変わる予定です。
NSCA資格認定試験の公式ホームページによると、全世界で46,000名(2018年8月末時点)を超える認定者がいる資格試験を日本国内で受けられるのが特徴です。アスリートやスポーツチームへのトレーニング指導だけではなく、施設運営や管理面までもがスキル対象とされています。
■公認アスレティックトレーナー(公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)):
同トレーナーの役割を協会では「公認スポーツ指導者制度に基づき、JSPO公認スポーツドクターおよび公認コーチとの緊密な協力のもとに、競技者の健康管理、外傷・障害予防、スポーツ外傷・障害の救急処置、アスレティックリハビリテーション、体力トレーニング及びコンディショニング等にあたる」としています。JSPOや加盟団体等からの推薦のある満20歳以上(受講する年の4月1日現在)であれば、6月から翌々年3月まで実施される定員100名程度の講習(共通科目150時間、専門科目600時間)の受講のあと、検定・検査を経て資格取得となります。
■公認トレーニング指導士(公益財団法人 日本体育施設協会):
満20歳以上の男女で、現にスポーツ施設の管理・運営に従事している、あるいはこれから従事しようとする人であれば、養成講習会(4日間:22時間15分)を受講したあと、筆記と実技の試験を受けることで取得できます。
■健康運動指導士(公益財団 法人健康・体力づくり事業財団):
養成講習会の受講か、健康運動指導士養成校の養成講座を修了し、認定試験の合格、登録手続きを経て健康運動指導士として活動できます。
■健康運動実践指導者(公益財団法人 健康・体力づくり事業財団):
「実践指導」の名が示すとおり、「自ら見本を示せる実技能力と、特に集団に対する運動指導技術に長けた者」の養成を目指した資格です。9日間で33単位の講習会の受講か、健康運動実践指導者養成校(2020年1月現在、175校の大学・専修学校が認定)での講義の受講を経て認定試験に進み、合格後は登録を経て健康運動実践指導者として活動します。
■NASM-PES(全米スポーツ医学協会):
全米スポーツ医学協会(NASM)はアメリカの団体で、同資格は理学療法士が作ったものなので、スポーツパフォーマンスの向上のほか、痛みのケア、けが・故障の防止なども対象としています。日本では(株)R-body projectのR●ACADEMYが、日本語で講座の受講から試験まで受けられるサービスをオンラインで提供しています。
■NATA-ATC(全米アスレティック・トレーナーズ協会):
全米アスレティック・トレーナーズ協会(NATA)の認定するトレーナーで、アメリカでは国家資格に当たります。アメリカでトレーナーとして活動するにはこの資格は必須となり、取得するにはアスレティックトレーニング教育認定委員会(CAATE)公認の4年制大学、または大学院のアスレティックトレーナープログラムを卒業することが条件となります。アメリカで活躍するのを目標にするだけでなく、日本でトップクラスのパーソナルトレーナーになるにも、このような資格があると頼もしいと言えるでしょう。
■医療系国家資格:
国家資格であり、けがや病気などで身体に障害のある人、またはそれらの防止のための運動療法や低周波治療等の物理療法などを施す「理学療法士資格」や、接骨院といった施設を開業できる国家資格である「柔道整復師資格」、栄養士法に定められる資格の「管理栄養士資格」、東洋医学に基づき、最近では投薬治療ができない人への対応ができると注目を集めている「鍼灸師(はり師・きゅう師)資格」なども、取得しておくとさらに可能性が広がるでしょう。
ここで紹介している資格に関する詳細は、2020年5月現在のものになりますので、
詳しくは各団体のホームページをご確認ください。
これらの仕事に直接関係する資格取得のほかにも、スポーツやトレーニングの歴史を知っておくことや、身体づくりの基本となる栄養学、試合に臨む心構えや、トレーニングを継続させるためのモチベーション育成の指導に役立つスポーツ心理学等の知識もあると、さらに仕事や指導の幅が広がることになります。
資格が必要でない職業であっても、やはり資格の取得がひとつの能力とやる気の証明になっています。もちろん、資格があれば独立して仕事をすることも上手くいくというわけではありませんが、その資格取得までに学んだこと、自分で考えたり行動したりして経験として積み上げてきたことが大きいのです。また、取得する資格の種類と、将来にどう生かすかのプランニングとの関係性も考えたいところです。
自分の力で試行錯誤し資格取得を目指すのは、大変有意義でいい経験にもなります。しかし効率よく、そしてより効果的に資格を取得する方法として、その専門の学校で学ぶという選択肢もあります。パーソナルトレーナーを目指すなら、専門知識の学べる学校を見学してみることから始めてみてはどうでしょうか。