スポーツトレーナーについて知る
スポーツ競技に欠かせない大切なサポート役として活躍する「スポーツトレーナー」。選手を支える重要な役割を担うため、さまざまなスキルが必要な職業です。では、実際にスポーツトレーナーになるにはどのような資格が必要なのでしょうか? 資格取得までの道のりとあわせて紹介します。
スポーツトレーナーになるために必須の国家資格は、特にありません。資格を取得しなくても「スポーツトレーナー」と名乗ることは可能です。ただし、スポーツトレーニングに関連する民間団体の資格は存在しており、取得しておくと専門的な知識があることを示せます。また、スポーツの現場で選手のケガやリハビリに対応できるよう、医療の知識やリハビリの技術があることを示す資格を持っているとよいでしょう。ここでは、スポーツトレーナーの民間資格と、スポーツトレーナーの仕事に役立つ医療・リハビリ関連の資格をいくつか紹介します。
スポーツトレーナーの仕事に役立つ民間資格には、さまざまなものがあります。キャリアプランによってどのような資格取得を目指すべきかを検討するとよいでしょう。以下は、代表的な民間資格です。
特定非営利活動法人NSCAジャパン(日本ストレングス&コンディショニング協会)が認定する、パーソナルトレーナーの資格。NSCAジャパンは、アメリカのコロラド州に本部を持つNSCA(National Strength and Conditioning Association)の日本支部です。1991年に設立され、指導者の育成や教育、知識の普及を通じて一般の人々に対する健康維持・増進、アスリートの傷害予防とパフォーマンスの向上などに貢献するための活動を行っています。
NSCAジャパンの公式サイトによると、NSCA認定パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)は「健康と体力のニーズに関して、評価・動機づけ・教育・トレーニングやコンディショニング全般の指導を行う、優れた専門的能力をもつ人材を認定する資格」です。アスリートだけでなく、幅広い層に対してトレーニング指導を行うため、トレーニングの知識のほか、医学的、運動生理学的な専門知識とトレーニングの指導スキルも必要とされています。
公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)が認定するメディカルコンディショニングの資格。同協会の公式サイトでは、資格の役割を次のように説明しています。
「公認スポーツ指導者制度に基づき、JSPO公認スポーツドクター及び公認コーチとの緊密な協力のもとに、競技者の健康管理、外傷・障害予防、スポーツ外傷・障害の救急処置、アスレティックリハビリテーション、体力トレーニング及びコンディショニング等にあたる」
特定非営利活動法人ジャパン・アスレチック・トレーナーズ協会(JATAC)が認定する資格。JATACは、1995年7月に財団法人柔道整復研修試験財団主催の「スポーツ科学講習会」修了者が母体となって設立された団体です。公式サイトでは協会について「柔道整復接骨医学の研究成果を基盤にして、競技スポーツや市民スポーツにおけるスポーツ障害の悪化を抑え、さらにスポーツ障害の予防を積極的に対応し、我が国のスポーツ活動の発展に寄与しようとする団体」であると説明しています。
全米アスレティック・トレーナーズ協会が認定する資格。アメリカの国家資格として認められており、アメリカでスポーツトレーナーの仕事に従事する人の多くがこの資格を持つといわれています。世界最高峰レベルの資格とみなされており、取得すればアメリカで活躍できることはもちろんのこと、日本国内でもスキルレベルの証明になります。
スポーツトレーナーを名乗るために必須の国家資格はないものの、スポーツの現場ではケガや体調不良がつきもの。スポーツトレーナーとして活躍するには、柔道整復師やはり師・きゅう師などの医療・リハビリ系の資格を持っていることが必須といっても過言ではないでしょう。そのほか、あん摩マッサージ指圧師や、理学療法士の資格を取得しているトレーナーもいます。以下の4つはすべて国家資格です。
柔道整復師は、骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷といったケガを治療する専門職です。伝統的な「整復術」をもとに体への施術を行います。
鍼(はり)と灸(きゅう)を用いて、痛みや疲労を取り除く治療を行う専門職です。実際には「鍼灸師(しんきゅうし)」という資格はなく、はり師・きゅう師というふたつの資格に分かれています。両方取得する人が多いため、鍼灸師と呼ばれることが多い資格です。
手や指を使って体の不調をやわらげる専門職です。あん摩、マッサージ、指圧という3種類の手法を使います。
病気やケガによって体に障害がある人や障害の発生が予測される人に対して、運動機能の回復や維持を目的に支援するリハビリテーションの専門職です。医師の指導のもと、患者の訓練や治療に取り組みます。
持っているとスポーツトレーナーとして活躍の場が広がる資格について紹介しましたが、取得するにはどんなことが必要で、難易度はどのくらいなのでしょうか。
NSCAジャパンの公式サイトによると、NSCAの資格認定試験は、「ストレングス&コンディショニングの指導者とその分野で活躍する研究者からなる職務分析委員会の分析に基づいて、専門職に必要な科学的基礎知識から実践応用にわたる包括的な知識について網羅するように」作成されています。2020年3月現在、出題範囲は、「クライアントに対する面談と評価」「エクササイズテクニック」「プログラムプランニング」「安全性、緊急時の手順、法的諸問題」「ノンスコアード問題(テストの点数には入らない問題)」の5分野です。
この資格を取得するには、認定試験に合格することのほかに、NSCAジャパン会員である、満18歳以上、高等学校卒業者または高等学校卒業程度認定試験(旧:大学入学検定試験)合格者、有効なCPR/AEDの認定者といった条件があります。認定試験の合格率は2018年度で75.2%でした。
日本スポーツ協会・公認アスレティックトレーナーは講習会受講と検定試験で資格が取得できます。日本スポーツ協会の公式サイトによると、講習会の受講条件は以下のとおりです。
「公認スポーツ指導者育成の受講者受入方針(アドミッション・ポリシー)に定める内容の他、以下受講条件に合致する者を本講習会の受講者として受け入れる。
・受講する年の4月1日現在、満20歳以上の者で、JSPO、JSPO加盟団体(都道府県体育・スポーツ協会、中央競技団体等)及びJSPOが特に認める国内統轄競技団体(以下「加盟団体等」という。)から推薦され、受講者選考基準を満たす者
・受講有効期間内に講習の全日程に参加が可能である者
・本講習の受講に支障がない健康状態である者
・受講内定後インターネットサービス「指導者マイページ」から申込が出来る者
公認アスレティックトレーナー資格は、同協会がカリキュラムを承認する大学・専門学校などでも取得することができます。合格者数は養成講習会受講者と免除適応コースそれぞれに見ると2014年度は259(54名 205名)名、2015年度は440(85名 355名)名、2016年度は447(61名 386名)名、2017年度は422(63名 359名)、2018年度355(54名 301名)と増加傾向にあります。この要因と考えられるのが免除適応コースからの合格者が増加していることが挙げられます。つまり、大学・専門学校で学んだ人の合格が増えています。
資格取得のための試験はありません。しかし、以下の要件を満たし、JATAC正会員となることが条件となるため、ハードルは低くないといえるでしょう。
資格取得には以下の条件を満たす必要があり、ハードルはかなり高いといえるでしょう。
・アメリカの指定校を卒業する
・インターンシップを経験すること
・3種類の認定試験に合格すること
柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、理学療法士の資格は、専門学校や大学で学んだうえで国家試験に合格した場合のみ取得可能で、独学は不可とされています。2019年に実施された試験の合格率はそれぞれ次のとおりです。(※以下は厚生労働省の発表による)
柔道整復師 65.8%、鍼灸師(はり師 76.4%、きゅう師 78.5%)、あん摩マッサージ指圧師 86.8%、理学療法士 85.8%。
ここまで紹介したデータを見てみると、民間のスポーツトレーナー資格のなかでは、NATA 認定アスレティックトレーナーがもっとも難易度が高いといえます。また、認定アスレチックトレーナー(JATAC-ATC)、日本スポーツ協会・公認アスレティックトレーナーについてもハードルが低いとはいえないでしょう。NSCA認定パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)に関しては合格率は高いのですが、4人に1人は不合格者となっているため、しっかりとした知識を身につけることが必要です。
医療・リハビリ関連の国家資格はどれも比較的合格率が高いものの、柔道整復師の合格率は65.8%とやや低めです。ほかの資格については合格率が高めとはいえ、どの資格も合格率だけでは図れない難しさがあります。専門知識が習得できる大学(4年制)、短期大学(3年制)、専門学校(3年制、4年制)などで学ばなくては受験資格が得られないため、時間、熱意、継続する意思などが必要です。試験に合格するには多くの知識が必要となるので、専門知識や実技なども無理なく学べる学校を探すことが大切でしょう。
スポーツトレーナーとして活躍する人の年齢層は30代と比較的若い人が多いです。そのため、資格取得のための準備は早くはじめるにこしたことはありません。高校生のうちから進路をよく考えて情報を集め、進学する学校について計画を立てはじめるとよいでしょう。ただし、資格の取得のみを目的とせず、実際に就業してから役に立つスキルを学べる学校を選ぶのがベストです。各学校のカリキュラムを確認し、自分の進路に合うか検討しましょう。
また、実際にスポーツトレーナーとして活躍している人の体験談や手記を読むと、キャリアプランニングの際に参考になる情報を得ることができます。知り合いにスポーツトレーナーがいれば、仕事の内容についてたずねてみるのもよいでしょう。そのような情報を参考に、将来のイメージをふくらませていきましょう。
スポーツトレーナーはスポーツ選手を支えるプロ。必須の資格がないとはいえ、広範囲にわたる知識や経験が必要です。しっかりとしたスキルを身につけ、選手たちの信頼を得られるようにしましょう。