スポーツトレーナーについて知る
2019年に4,000人を突破し、2020年10月には4,331人が日本スポーツ協会に登録されているアスレティックトレーナー。スポーツ指導者として、アスレティックトレーナーの人気は年々増加しています。しかし、アスレティックトレーナーについて詳しく理解していない人も多いかもしれません。そこで、いま注目されているアスレティックトレーナーについて、なり方や魅力、活躍の場などあらゆる情報を網羅してお伝えします。
アスレティックトレーナーは、おもにスポーツ選手を対象にスポーツドクターやコーチと連携して、トレーニングやコンディショニングのサポートを行います。具体的な仕事内容は次のとおりです。
トレーニング前後の体調管理に加え、スポーツドクターに協力して、メディカルチェックを行います。
スポーツ選手が外傷、障害を負わないよう、メディカルチェックの結果をもとにトレーニング内容を確認し、適したトレーニングメニューを提案します。また、常にスポーツ選手の状況を把握し、体調をくずさないように事前にケアをするなど、予防に努めます。
ほかにも、スポーツジム、フィットネスクラブなどで、一般の利用者を対象に健康維持、体力維持のためのトレーニング指導を行います。トレーニングの際に外傷、障害を負わないように予防することもアスレティックトレーナーの仕事です。
万全な予防をしても、なんらかの事情で外傷、障害が発生する場合があります。万が一の際には迅速に救急処置を施し、最悪の事態を防ぐよう努めるのも、アスレティックトレーナーの重要な任務のひとつです。
負傷したスポーツ選手に対し、復帰するまでに必要とされるリハビリテーションを行います。アスレティックリハビリテーションは、一般的な歩く、しゃがむ、小走りをするといったメディカルリハビリテーションではありません。ダッシュ、ストップ、ジャンプなど、スポーツ選手が行う競技に必要な能力を回復させるためのリハビリテーションです。競技復帰へ向けた、より実践に近いかたちでのリハビリテーションといえます。
スポーツ選手が万全の体調で試合に臨めるよう、コーチと協力して体力トレーニングやコンディショニングの調整を行います。また、スポーツ心理学をもとに、フィジカル面だけではなく、メンタル面においてもケアを行います。心身ともにスポーツ選手が万全の状態を維持できるように、寄り添って指導することが役割のひとつです。
大学や高校のスポーツクラブで活動する生徒を対象に、健康管理、外傷、障害予防を行うケースも最近では増えています。
医師との協力のもとで、医療機関や福祉施設で高齢者のリハビリテーション補助や、外傷、障害予防に努めます。
ここまで、アスレティックトレーナーの概要と仕事内容を紹介しました。次は、仕事内容を混同しがちなスポーツトレーナーや理学療法士との違いについて説明します。
スポーツトレーナーのおもな仕事内容は、スポーツ選手のトレーニング指導や、コンディショニング調整のサポートです。それならアスレティックトレーナーとほとんど変わらない、と思うかもしれません。しかし、実際にはいくつかの違いがあります。
大きな違いは、資格の有無です。アスレティックトレーナーにはいくつかの民間資格が存在しますが、スポーツトレーナーは、スポーツ選手の指導やケアを行う仕事の総称であり、スポーツトレーナーという資格はありません。
そのため、基本的にスポーツトレーナーは、コンディショニング面のケアを中心に行います。リハビリテーションやケガの応急処置をするには、柔道整復師や鍼灸師といった別の資格が必須となります。アスレティックトレーナーもメディカル全般のケアができるわけではありませんが、スポーツドクターの協力のもとで、メディカル面のケアは可能です。
スポーツトレーナ-についてさらに詳しく知りたい方は、「スポーツトレーナーになりたい!スポーツトレーナーの活躍の場や収入、求められる人材などを解説します」をご参照ください。
スポーツトレーナーは、スポーツ選手のコンディショニング面での指導、ケアが中心です。一方、理学療法士は、国家資格者によるメディカル面でのリハビリテーションが仕事の中心です。対象はスポーツ選手以外にも、子どもから高齢者まで多岐にわたり、ケガや病気後のリハビリテーションを行います。
リハビリテーションを行うという点では、アスレティックトレーナーと変わりませんが、理学療法士は国家資格の所有が必要な職種です。ここが、国家資格の所有は必要とされないアスレティックトレーナーとの大きな違いです。資格の有無によって、対応できる症例にも差が出てきます。
理学療法士についてさらに詳しく知りたい方は、「理学療法士の仕事とは?理学療法士になるための方法や活躍の場を紹介」をご参照ください。
アスレティックトレーナーの活躍の場は、フリーランスとして活躍するケース、就職して活動するケースの大きくふたつに分かれます。フリーランスの場合、スポーツ選手やプロのスポーツチーム、実業団などと専属契約を結び、遠征があれば帯同して指導、ケアを行います。競技によっては活動がない時期もあるため、複数の競技でスポーツ選手やチームと契約しているケースも多いようです。
一方、就職して活動する場合は、一般的に、スポーツジムやフィットネスクラブといったスポーツ施設に就職し、入会者に対して指導、ケアを行います。ほかには、トレーナーの派遣会社、学校、医療機関、福祉施設などにも活躍の場があります。
アスレティックトレーナーになるには、必ず資格が必要なわけではありません。しかし、フリーランスで活躍する、あるいは就職するにしても、実力を認めてもらう必要があります。そのため、適切な資格を持っていない場合はプロとして契約するのは困難だといえるでしょう。アスレティックトレーナーになるために必要な資格は、公益財団法人日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)やNPO法人ジャパン・アスレチック・トレーナーズ協会認定アスレチック・トレーナー(JATAC-ATC)などがあります。
資格に関する詳細は、「アスレティックトレーナーの資格の種類や合格率は?取得すべき資格も紹介」をご覧ください。
これからアスレティックトレーナーとして生計を立てていきたいと考えている人にとっては、収入面が非常に気になるところでしょう。2018年7月に公益財団法人日本スポーツ協会は「第一回日本のトレーナー実態調査」を行いました。対象は日本国籍を持つ20歳以上で「日本国内外に居住するアスレティックトレーナー資格保有者」「職業としてトレーナー活動を行っている人(資格の有無にかかわらない)」「トレーナー活動を何らかのかたちで行っている人(資格の有無にかかわらない)」とし、調査回答者総数は1294名でした。この調査によると、トレーナー活動による年収でもっとも多いのは1~100万円(38.3%)でした。続いて201~300万円(11.7%)、301~400万円(10.6%)となっています。
調査結果をみると、アスレティックトレーナーを含むトレーナーの4割程度の人が100万円以下の収入ですから、かなり低いと思えるでしょう。しかし一方で、収入501万円以上の人も全体の16.4%で、1,001万円以上の高収入を得ているトレーナーも2.7%存在します。
また同調査では、トレーナーとして活動中と回答した人のなかで、プロスポーツに関わっている人は15.1%、ナショナルチームが9.2%、クラブチームが4.8%でした。こうした団体との専属契約が結べれば、高収入が期待できます。
上述した収入調査は、トレーナーとしての活動による収入だけを見たものです。同じ調査でフルタイムではなくパートタイムでトレーナーをしている人の就業先を聞いたところ、「医療機関」「教育機関」「自身が経営している治療院」「雇用されている治療院」などが挙げられています。それらの就業先で得た収入は上記の収入には含まれていないため、トレーナー以外の就業先があれば、当然ながら総収入は高くなります。
また、スポーツ選手やスポーツチームと契約しているケースであっても、時期により活動がない場合もあります。そこで、柔道整復師や鍼灸師などの資格を取得しておけば、アスレティックトレーナーとしての活動期間が短く収入が少ない場合でも、別の施設で働いて収入を得られる可能性があるのです。
柔道整復師とアスレティックトレーナーの需要や現状については、「柔道整復師とアスレティックトレーナーの違いとは?需要と現状を解説」をご覧ください。
ここまで、さまざまな面からアスレティックトレーナーについて見てきました。仕事内容、なり方、活躍の場から、収入の状況など、おもに現実的な面は把握できたのではないでしょうか。続いては、知られざるアスレティックトレーナーの魅力について見ていきましょう。また、アスレティックトレーナーの適性についてもお伝えします。
アスレティックトレーナーの最大のよろこびは、自分が関わったスポーツ選手やチームが最大のパフォーマンスを発揮できたときです。また、ケガからリハビリテーションをへて復活したスポーツ選手が活躍した際、一緒によろこびを分かち合えるのも大きなやりがいとなるでしょう。そうしたスポーツの現場に関わり続けられるのも、アスレティックトレーナーの仕事の魅力だといえます。
スポーツジムやフィットネスクラブ、スポーツ施設で働く場合は、プロチームやスポーツ選手相手とはまた別のやりがいがあります。例えば、一般の利用者が体調を整え健康的な生活が送れるように、指導、アドバイスをしたり、スポーツ大会に出ることを目標に体力づくりのサポートをしたりします。このように、相手と一緒にゼロから目標に向かって挑戦するプロセスは、大きな魅力です。
学校、医療機関、福祉施設で活動する場合は、子どもたちに運動の楽しさを伝えられます。また、医師や理学療法士とともに高齢者のリハビリテーションに付き添い、療養者の回復に協力できる点でもやりがいを感じられるでしょう。
アスレティックトレーナーは、競技の裏方としてスポーツ選手やチームの活躍、勝利に貢献する仕事です。そのため、スポーツ選手やチームの活躍、勝利に貢献できることによろこびを感じられなければ務まらないといえます。
リハビリテーションやコンディショニングの調整では、常にスポーツドクターやコーチと連携し、協力し合っていかなければ、良い結果に結びつきません。つまり、自分の意見を主張しすぎないこと、常にコミュニケーションをたやさないことが、アスレティックトレーナーには欠かせない資質といえるでしょう。
アスレティックトレーナーを目指す人の多くは、スポーツ選手やスポーツチームを相手に活躍したいと思っているかもしれません。しかし、アスレティックトレーナーになれても、必ずしもそうした場で働けるとは限らないのです。
スポーツ選手やスポーツチームと契約ができなかった場合でも、スポーツジムやフィットネスクラブで一般の利用者を相手にして、自分の最大限の力を発揮したいと思える人。また、学校や医療機関で子どもや高齢者、療養患者にスポーツの楽しさを伝え、リハビリに立ち向かう力を与えたいと思える人。どういった場であろうと、だれかをサポートすることで自分も相手も幸福感を得られる、そういった強い信念がある人は、アスレティックトレーナーに向いているといえるでしょう。
年々、人気が高まっているアスレティックトレーナー。しかし、収入面においては多くの場合、この仕事だけで生活をしていくにはかなり厳しいのが現状です。一流のスポーツ選手やナショナルチームと契約できれば高収入も期待できますが、そうした契約ができる人はほんのひと握りです。通常は、複数のチームと契約をする、ほかの資格を取得して別の収入口をつくるといったことが必要かもしれません。
またアスレティックトレーナーは、スポーツドクターの協力を得なければ、医療面において自己判断で処置をすることができません。自身の判断でスポーツ選手のリハビリテーションを実施したいのであれば、NSCAと柔道整復師の資格取得がおすすめでしょう。NSCAは、世界でも認知度が高いトレーナーの資格です。NSCAの認定資格を取得すれば、パーソナルトレーナーやフィットネストレーナーとして働けます。また、柔道整復師の資格があれば、スポーツドクターの手を借りずとも、施術ができます。
このふたつの資格を取得することで、活躍できる範囲が広がるのです。将来性を考え、この先どのような活躍をしたいのかを明確にしたうえで、資格取得を選択肢のひとつとすることをおすすめします。
NSCAと柔道整復師の資格を同時に目指すことができる学校についてはコチラからご覧ください
今回紹介してきたように、アスレティックトレーナーは、スポーツ選手やチームとともに最高のパフォーマンスで勝利を目指す環境をつくり、指導、ケアをする仕事です。一流のスポーツ選手の活躍に少しでも貢献したいと思っている人にとっては、魅力的な職業のひとつでしょう。
将来像をイメージし、活躍できるアスレティックトレーナーを目指しましょう。