鍼灸師について知る
鍼(はり)や灸(きゅう)を使った施術を行う鍼灸師は、人体が持つ自然治癒力を生かして治療をします。一般的に鍼灸師が扱うのは、肩こりや腰痛の緩和、頭痛、疲労の症状改善などですが、最近では美容目的で鍼灸を取り入れるところも増えています。男女を問わず活躍の場が拡大する鍼灸師について、その仕事内容や就職先、なり方などを詳しくお伝えします。
鍼灸師は、「鍼」・「灸」を使用して、病気の改善や健康回復を促す仕事です。東洋医学では、「気(生命エネルギー)」のめぐりが悪くなると病気になると考えられており、「気」の流れを調整するツボ(経穴)を刺激し、自然治癒力を高める際に鍼や灸を使います。医療系国家資格のひとつであり、肩こりや腰痛、頭痛、神経痛といった痛みを伴う症状に効果のある治療法として古くから利用されています。
「鍼灸師」という名称の資格があると勘違いされがちですが、実際には「はり師」と「きゅう師」の2種に分かれています。はり師もきゅう師も別々に国家資格が存在し、鍼灸師と名乗るためには両方を取得しなければなりません。ただし、それぞれ片方の資格だけでも仕事は可能です。
国家試験に合格するためには、専門的な知識や技術を学ぶ必要がありますが、資格取得後は鍼灸院や美容サロンなどで資格を生かした仕事に就いて、幅広く活躍できます。
鍼灸について詳しくは、「【鍼灸の基礎知識】医療・美容・スポーツ界で注目される「鍼灸」とは」をご覧ください。
鍼灸師と似た仕事として、理学療法士や柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師などがあります。これらはすべて医療系国家資格ですが、それぞれの違いが良くわからないという人もいるでしょう。それぞれの特徴を紹介します。
理学療法士は、ケガ、病気、高齢化などによって日常的生活が困難な人のリハビリテーション(以降、リハビリ)を行います。運動療法や物理療法による機能回復を目的としており、医師の指示を受けてリハビリを実施します。鍼灸師には自身で鍼灸院を運営できる開業権がありますが、理学療法士は、理学療法を行うことを目的として開業することはできません。
理学療法士については、「理学療法士の仕事とは?理学療法士になるための方法や活躍の場を紹介」もご覧ください。
柔道整復師は、テーピングや湿布、手技によってねんざや打撲、骨折などの治療を行います。鍼灸師は病気回復や健康維持を目的とした治療を行いますが、柔道整復師はケガや外傷の治療を目的としている点が異なります。鍼灸師と同様に、接骨院・整骨院などを自身で運営できる開業権があります。
柔道整復師については、「【徹底解説】柔道整復師とは?仕事内容、必要な資格、年収や適性について」もご覧ください。
「あん摩」「マッサージ」「指圧」の3つの技法を用い、肩こりや腰痛、筋肉痛などの症状を改善・緩和させる施術を行います。基本的に、鍼灸師のように道具を使った施術は行いません。開業権があり、マッサージ師として開業できるのは、あん摩マッサージ指圧師だけです。
あん摩マッサージ指圧師については、「あん摩マッサージ指圧師の仕事内容、なり方、柔道整復師や整体師との違いは?」もご覧ください。
鍼灸師は、病気や疲労からの回復や健康維持を目的とした治療を行うのが主な仕事です。治療を進める際には、基本的には患者に対し、「症状を聞く」「触診によって状態を把握する」「はり師、きゅう師が行える範囲の症状かどうかを見極める」「治療方針を決める」「適切な施術を行う」といった流れで実際の治療を行います。
上述したように、鍼灸師は、「はり師」と「きゅう師」に分かれます。それぞれの施術内容について見ていきましょう。
鍼灸師として両方の資格を取得すれば、鍼、灸両方の施術を使った治療が行えます。
では、気になる鍼灸師の給与や平均年収をみていきましょう。
ここでは鍼灸院や鍼灸接骨院などの医療施設にスタッフとして勤務する場合と、臨床経験を経て独立開業した場合との給与・平均年収を確認し、鍼灸師の給与相場や収入アップの可能性などについても解説します。
厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト(2022年2月調査時点)」によると、鍼灸師の平均年収は426.4万円です。求人賃金で見ると、ハローワーク求人統計データの同職種の全国平均は、月額25.2万円となっています。ただし、鍼灸師の就職先は幅広く、勤務先や働く場所によっても収入が異なります。同サイトで地域別の平均年収を見ると、東京都では403.6万円で、茨城県では463.7万円と差が見られます。あくまで目安として考えておきましょう。
なお、国税庁が発表した「2020年(令和2年)分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者全体の平均給与は433万円でした。このデータと比較すると、医療施設で働く鍼灸師の年間所得は約7万円低いことになります。
医療施設で勤務しながら収入アップを目指す方法は大きく分けてふたつあります。ひとつは、経験を積んでキャリアアップする方法です。多くの患者を受け持ち、施術能力や接客対応を向上させていけば収入アップが期待できるでしょう。また、柔道整復師や健康運動指導士などの資格を取得して活躍の場を広げ、キャリア形成を考えるのもおすすめです。
もうひとつの方法は、経験を積んだうえで歩合制の医療施設へ転職する方法です。一般的に、鍼灸師が医療施設で勤務する場合の給与体系は、「固定給」「歩合制」のどちらかです。歩合制は、施術をすればするだけ給与が上がります。そのため、歩合制の医療施設に勤務し、多くの患者からの信頼を獲得すれば、固定給よりも収入アップできる可能性があります。
先述のとおり、鍼灸師は開業権が認められている資格です。開業後の平均年収を見てみましょう。
公益社団法人東洋療法学校協会が平成28年(2016年)10月に実施した、「あん摩マッサージ指圧師・はり師及びきゅう師 免許取得者の進路状況アンケート調査結果」によると、開設している層の平均月収は20.3万円(年収換算で243.6万円)という結果でした。
参照:あん摩マッサージ指圧師・はり師及びきゅう師 免許取得者の進路状況アンケート調査結果|公益社団法人東洋療法学校協会
これだけを見ると、医療施設に勤務しているほうが高い収入を得られると思うかもしれません。しかし同調査では、勤務している層の平均月収は19.8万円(年収換算で237.6万円)となっており、先の資料とは差があります。調査機関や調査対象、時期によって結果は大きく異なるため、あくまで目安として把握しておきましょう。
独立開業する場合は、経営力によって収入に差が出ます。施術能力、接客対応の向上に加え、経営能力を備えることで、大幅な収入アップが期待できるでしょう。集客や雇用、会計業務など経営にかかる事務作業も増えますが、一方で、自分らしく、やりたい施術を取り入れて働けるというやりがいもあります。
ただし、独立開業には開業資金が必要です。早い段階から将来を見越して計画を立てておくとよいでしょう。医療施設で勤務しながら実績を積み、さらに経営者の視点で流れを見る訓練をすることで学びが深まります。
鍼灸師はやりがいも大きいものの、その分、大変さも多い仕事です。ここでは、鍼灸師としてのやりがいとともに、大変な点を見てみましょう。
やりがいとしては、以下のような点が挙げられます。
鍼灸師の魅力については、「鍼灸師の仕事内容とその魅力とは?適性や将来性を解説します」もご覧ください。
一方で、鍼灸師は、次のような点で負担を感じることがあります。
鍼灸師としての就職先は多岐にわたります。ここでは鍼灸師の主な就職先を見てみましょう。
鍼灸師の勤務先としてもっとも一般的なのが、鍼灸院です。一般患者をはじめ、高齢者やアスリートなど幅広い患者が訪れます。年齢や性別を問わず、体調不良に悩む地域の人を対象として、施術を行います。
鍼灸師は、スポーツトレーナーとしての活動も可能です。鍼灸を活用してアスリートの身体のケアを行えるトレーナーとして、高い需要が見込めます。スポーツジムやフィットネスクラブのほか、プロスポーツ選手やチームへの帯同、芸能人やミュージシャンの体のケアやサポートを行うなど、さまざまなニーズがあります。
なお、スポーツトレーナーやパーソナルトレーナーを目指すなら、民間のスポーツトレーナー資格の取得も検討してみましょう。また、ケガや骨折などの治療ができる柔道整復師の資格を取得しておくと、緩和ケアから治療までできるスポーツの専門家として活躍できるでしょう。
スポーツトレーナー、パーソナルトレーナーについて詳しくは、こちらをご覧ください。
―スポーツトレーナーになりたい!スポーツトレーナーの活躍の場や収入、求められる人材などを解説します
―パーソナルトレーナーになりたい!スポーツトレーナーとの違いや将来性を解説
実際に鍼灸師の国家資格を取得し、芸能人のツアー帯同経験のある、日本健康医療専門学校の卒業生インタビュー「夢はメジャーリーガーのトレーナー!芸能人のツアー帯同経験もある若手鍼灸師【卒業生インタビューvol.2】」も併せてご覧ください。
不妊症や生理不順、更年期障害、つわりなど、女性特有の症状の改善、緩和に特化した女性向けの鍼灸院も就職先のひとつです。一般の鍼灸院との違いは、主な対象が女性である点です。婦人向けと美容鍼灸双方を対象としている鍼灸院もあるため、より選択肢も広いといえるでしょう。
近年、新たな美容法のひとつとして、美容鍼灸が注目されています。リフトアップや美肌、アンチエイジング、ホルモンバランスの調整など、鍼灸によりさまざまな効果が期待できるとされており、就職先としても有望です。
女性向け鍼灸院や美容鍼灸院に訪れる患者は基本的に女性のため、鍼灸師も男性より女性のほうが高いニーズがあります。そうした意味で、美容鍼灸院・施設では、女性患者の不安や希望を把握し、適切な治療を行える女性鍼灸師が活躍できる場といえるでしょう。
女性が鍼灸師になるメリットや活躍できる場について、詳しくはこちらをご覧ください。「女性が鍼灸師を目指すには?女性鍼灸師のメリットや就職先、将来性とは」
鍼灸院ではなく、通常の病院でも整形外科やリハビリテーション科で鍼灸師のニーズがあります。鍼や灸を用いて、リハビリを行う患者の痛みを緩和させ、ケガからの回復を早める効果が期待されています。
機能訓練指導員になるには、はり師もしくはきゅう師をはじめとする医療系国家資格の資格取得が必須です。高齢化社会が進むなか、鍼灸師が活躍できる場所として、高齢者施設や介護福祉施設などの就職先が増えることも考えられます。
機能訓練指導員について詳しくは、「機能訓練指導員の将来性とは?仕事内容、なるための方法を解説」をご覧ください。
何度もお伝えしているように、鍼灸師は開業権を持っています。自身で鍼灸院を設立し、経営しながら、自分が求める施術を提供できます。対象を問わず一般の患者が利用できる鍼灸院だけでなく、美容やスポーツを専門とするなど、興味を持つ分野で開業するのもよいでしょう。
鍼灸師になるには、国家資格取得が必須です。ここでは、国家資格取得までの一般的な流れについて見ていきましょう。
はり師ときゅう師の国家試験受験資格を取得するには、文部科学省が鍼灸師の養成施設として指定している鍼灸師養成学校(大学、短期大学、専門学校)で3年以上学び、専門知識、技術を習得する必要があります。
大学・短期大学や専門学校で学ぶ科目は、東洋医学の基礎となる「東洋医学概論」をはじめ、西洋医学の基礎となる「解剖学」・「生理学」、鍼灸師として常用する道具である鍼や灸の使い方である「鍼理論」・「灸理論」・「経絡経穴概論」などです。ほかにも、「病理学概論」「臨床医学総論」「臨床医学各論」「リハビリテーション医学」「衛生学・公衆衛生学」「関係法規」「医療概論」などの科目があります。
これらの必要な科目を学んだあとは、鍼・灸を使い、はり師・きゅう師としての専門技術を身につけます。実習を含めたすべてのカリキュラムを修了したら、国家試験を受験できる資格が得られ、試験に合格すれば有資格者として働けます。
最短距離で鍼灸師になりたいのなら、国家試験までに4年間かかる大学よりも、3年間で全科目を履修できる専門学校への進学がおすすめです。実際、前述した「職業情報提供サイト」によると、鍼灸師として働く人の73.1%が専門学校卒とされています。高校卒業時点で鍼灸師になりたいという強い気持ちがあるのであれば、専門学校のほうがより早く鍼灸師の道へ進める可能性が高まるでしょう。
鍼灸師は実際に鍼や灸を使った実践が必要であり、通信教育だけでは受験資格を得られません。社会人から鍼灸師を目指す際や、日中の通学が難しい場合には、夜間部のある専門学校を選ぶとよいでしょう。
鍼灸師になるための国家試験は1年に1回、毎年2月下旬ごろに開催されます。試験の設問数は150問であり、1問を1点として、総得点90点以上が合格基準とされています(2020年4月現在)。
2021年2月に実施されたはり師・きゅう師の試験の合格率は、はり師が約70.0%、きゅう師が約72.2%となっています。2017年から2021年までの5年間を見ると、はり師もきゅう師も60%~70%程度の合格率です。特に2019年以降はどちらも70%以上と合格率が上昇しています。その年によって合格率には差があるものの、おおむね60%以上で推移することが想定されます。
鍼灸師の国家試験については、「鍼灸師になるための資格は必要?その道のりや国家試験について」もご参照ください。
鍼や灸による治療は、古い技術のようなイメージがあるかもしれません。しかし近年では、美容や女性特有の症状の改善に効果があるとして、美容系の鍼灸院が増加しています。また、スポーツ鍼灸の需要も高まるなど、さまざまな分野で注目されています。大変な面もありますが、やりがいも十分にあり、将来は独立開業を目指す道も開けます。
日本健康医療専門学校は、鍼灸師になるための資格取得を目指せる医療系専門学校です。就職後もすぐ活躍できるような授業カリキュラムや、卒業後の進路や就職についてのサポート体制も整っています。
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